消化器内科takoitaのメモ

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食道粘膜下腫瘍の診断と鑑別

  • 平滑筋腫(Leiomyoma)

粘膜下腫瘍の中で最も頻度が高く、食道良性粘膜下腫瘍の約80%を占める。

食道壁の粘膜筋板、あるいは固有筋層(内輪筋・外縦筋)より発生し境界明瞭。内輪筋由来74%、粘膜筋板由来18%、外縦筋由来8%とされている。

 

単発が多く、分葉状や多発性のものもある。

好発部位は、半数以上が下部食道であり、中下部食道で大半を占める。

発育様式は粘膜筋板由来のものは内腔発育型、固有筋層由来のものは内腔発育型や壁外発育型である。

粘膜筋板由来のものは鉗子で圧迫すると容易に動くが、固有筋層由来のものは可動性に欠ける。

内視鏡

通常観察では、びらんや潰瘍を伴わない平滑な扁平上皮で覆われている。

平滑筋腫では通常腫瘍頂部粘膜に不整や潰瘍を認めない。

これらを認めた場合は別疾患や悪性の平滑筋肉腫を疑う。

立ち上がりは、粘膜筋板由来は急峻であり、筋層由来はなだらかである。

EUSでは、第2層または第4層に連続する低エコー域として描出される。

内部に出血や壊死を認めれば悪性の可能性も疑う。

・病理

紡錘形細胞が束状に交錯し、細胞密度が低く、核分裂像を殆ど認めない。

α-SMAとdesminが強陽性であり、CD34やKIT及びS-100蛋白が陰性である。

・画像

 

Fig. 平滑筋腫.黄白色調で健常の扁平上皮に被覆された粘膜下腫瘍

 

  • 顆粒細胞腫(Granular cell tumor)

 

Schwann細胞由来の腫瘍。

食道良性粘膜下腫瘍のうち2番目に多く約5%を占める。

好発部位は中下部食道であり、約90%を占める。

内視鏡

通常観察では、中央がわずかに陥凹した黄色調または白色調隆起。

10mm以下のものでは半球状、丘状の非特異的な形態だが、10mm以上の大きさになると、臼歯状所見と表現される特徴的な形態を示し、内視鏡でも比較的診断は容易。

EUSでは、第2/5層から第3/5層の均一なやや低エコー域として描出される。

一般的には良性腫瘍であるが、稀に悪性例の報告もある。

・病理

病変の主座は粘膜下層だが、頂部付近では腫瘍組織は上皮直下に密接して粘膜固有層内に膨張性に増殖している。

この組織像が表層上皮の菲薄化や頂部の平定化、軽度の凹みの要因になっている。

S-100蛋白、NSEに陽性を示す。

・画像

 

Fig. 顆粒細胞腫.黄白色調の粘膜下腫瘍であるが、辺縁境界はやや不明瞭で頂部には不整を認める。小さな臼歯様に類似している。

 

食道良性腫瘍の中では約2%。

好発部位は頚部食道。

内視鏡

通常観察では、非腫瘍粘膜に被覆され、表面平滑な黄白色調隆起。

鉗子で圧迫すると柔らかく変形する(cushion sign)。

送気量や蠕動などで形態が変化するsqueeze sign陽性。

ボーリング生検にて深部から脂肪組織が確認されるnaked fat sign

EUSでは、第3層内に高エコー域として描出される。

・病理

主に粘膜下層を主体に成熟した脂肪細胞の増生と少量の血管を含む結合織から成る非上皮性良性腫瘍

 

  • GIST

食道原発GIST(gastrointestinal stromal tumor)は消化管GISTの約5%を占める。

・病理

免疫組織学的には、CD34とc-kitが陽性であり、SMAとdesminおよびS-100が陰性であることで診断される。

 

食道悪性粘膜下腫瘍で最も頻度が高く、約40%を占める。

好発部位は下部食道である。

内視鏡

黒色調の粘膜上皮に覆われた隆起で、分葉状の形態を示すが表面平滑である。

鉗子で圧迫すると柔らかいが変形することはない。

病理:

上皮基底層・間質境界部に存在するjunctional activityの存在が確認できれば悪性黒色腫と診断できる。

junctional activityの存在が証明できない場合は、HMB-45、melan A、S-100蛋白による免染が有用。

特にmelanotic typeではmelan Aが、amelanotic typeではS-100蛋白が有用。

 

食道原発悪性リンパ腫は1%以下で、ほとんどは非ホジキンリンパ腫でB cell typeが多い。

内視鏡では、腫瘍形成や全周性の壁肥厚を認めるものが多い。

・画像

 

Fig. 黄白色調の粘膜下を主体とする比較的軟らかい病変

 

  • 転移性食道腫瘍

稀な疾患だが、乳癌・胃癌からの食道転移は時々報告されている。

いずれも粘膜下腫瘍様の形態を呈するが、乳癌からの食道転移は全周性で狭窄を来たし、胃癌からの食道転移は単発なこともある。

縦走するSMT様隆起では、悪性リンパ腫と転移性腫瘍を鑑別する必要がある。

悪性リンパ腫は柔らかく表面が平滑であることが特徴だが、転移性食道腫瘍ではその表面が不整形で硬い粘膜下腫瘍様病変である。

 

Schwann細胞由来の腫瘍で、食道では極めて稀。

内視鏡

通常観察では、半球状や丘状に隆起する病変として認める。

表面は平滑で凹凸は少なく、粘膜色調や血管透見性の変化も少ない。

EUSでは、固有筋層由来の内部エコーが比較的不均一な低エコー腫瘤として認められる。

SMTは通常内視鏡生検での診断率は低く、治療を前提に病理組織学的診断が必要なSMTにはEUS-FNAを行う。

・病理

HE染色で不明瞭な核の柵状配列を伴う紡錘形細胞が密に錯綜し増生する。

S-100蛋白が陽性、CD34は50%の症例で部分的に陽性、c-kit・desmin・α-SMAは陰性となる。

 

参考

症例で身につける消化器内視鏡シリーズ 食道・胃腫瘍診断

胃と腸 所見用語集2017

胃と腸 55(3)2020