消化器内科takoitaのメモ

消化器内科医takoitaのメモ

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食道の腫瘍・非腫瘍の内視鏡的鑑別

通常観察、ヨード染色、NBI、拡大観察を併用する。

  • glycogenic acanthosis(GA)

細胞質内にグリコーゲン顆粒を有する有棘細胞の肥厚。扁平上皮層の肥厚。

高齢の男性の食道でよく観察される。

 

内視鏡

通常観察で数mm~1cm程度の類円形で表面平滑な限局性白色隆起。多発して存在する事が多い。

近接すると表面に程度の差はあるが白濁した微細な点状~棘状隆起が伸びだしている。

ヨード染色で濃染される。近接像の表面の点状~棘状隆起は点状に抜け、皮膚の脂腺開口部に類似してみえる。

NBIにおいても白色調に観察される。

無数にある場合は、Cowden病を疑い全身検索を行う必要がある。

Cowden病:

常染色体優性遺伝性疾患。特徴的な皮膚粘膜病変と全身諸臓器の過誤腫性または腫瘍性病変による多彩な臨床像を呈する。

消化管では高率にポリポーシスを合併し、特に食道・胃・遠位大腸に多発するポリープが特徴的。

内視鏡では、白色調で1~3mm程度の扁平小隆起が食道全体にびまん性に認められる。

これらの隆起はグリコーゲンを有するためヨード染色で濃染する。

・鑑別

hyperkeratosis:

白色隆起を呈する。ヨード染色で染色されない。

食道乳頭腫:

白色隆起を呈する。表面がイソギンチャク様に分葉しているため鑑別は容易。

食道皮脂腺:

境界が不明瞭で小さな黄白色調の扁平隆起。

近接すると菊花様で頂部に白色の小突起を認め、鑑別は比較的容易。

白色扁平隆起を伴う0-Ⅱc型上皮癌:

腫瘍はNBI拡大で口径不同・走行不整のある拡張した異常血管を認める。

ヨード染色にて白色隆起濃染されず、腫瘍は不整形な不染を認める

・病理

肥厚した有棘細胞層の細胞はやや大型化、淡明化し、PAS反応では豊富なグリコーゲン顆粒が胞体内に認められる。

・画像

 

Fig.1 食道後壁に3 mm 大と5 mm 大の白色調半透明な類円形の平板状隆起を認める。

Fig.2 近接像では,内部に白色調の微細顆粒が観察できる。

Fig.3 NBI 拡大観察では,正常よりも細く線状の乳頭血管が規則正しく疎に観察できる。

Fig.4 茶褐色に濃染され,点状の不染が規則正しく分布している。

  • hyperkeratosis

粘膜上皮の錯角化層の肥厚の事。

内視鏡

通常観察で白色扁平隆起を示す。

ヨード染色では不染を呈する。

白色顆粒状隆起を伴う0-Ⅱa型食道癌との鑑別が必要な場合もある。白色隆起周囲の観察も詳細に行う。

  • 黄色腫(xanthoma)

泡沫細胞、すなわち黄色腫細胞の集簇による病変。

胃ではよく認められるが、食道ではまれ(0.46%)。

内視鏡

通常観察は、典型例では多数で点状の黄白色小顆粒の集簇として観察される。黄色腫細胞の量が多く充満すれば顆粒結節状となることがある。

拡大観察では、乳頭の配列に一致して黄白色顆粒がみられ、そのなかに縮れて走行する微細血管が観察され特徴的。

・病理

黄色腫細胞は扁平上皮結合組織乳頭部に嵌まり込むように存在する。

・鑑別

食道異所性皮脂腺:

粘膜固有層の島状に存在するため開孔部を有する花弁状の黄白色結節。

内視鏡所見の特徴を知っていれば鑑別は容易。

  • 異所性皮脂腺・食道皮脂腺(esophageal sebaceous gland)

 

  • 食道メラノーシス(melanosis of the esophagus)

通常の食道粘膜は基底層にメラサイトがごく少数(2~8%)しか存在せず、メラニン顆粒を認めない。

基底層のメラニン顆粒が著しく増加することで、食道粘膜が黒色帳を呈するものをメラノーシスという。

頻度は約0.1%とされるが、扁平上皮癌周囲では30%程度に認める。

高飲酒歴、高喫煙歴の症例に多く認められる。

内視鏡

通常観察で、褐色から黒色の色素斑として観察される。

辺縁不整、内部の色調は濃淡が混在することが多い。

・鑑別

悪性黒色腫

基底層のメラノサイトから発生する腫瘍が悪性黒色腫。黒色調の粘膜に覆われたSMTは悪性黒色腫を鑑別に考える。

ほとんどが隆起性腫瘍を形成し、有茎性あるいは亜有茎性のポリープ状隆起が約1/3を占める。

腫瘍細胞の産生するメラニン色素の量により色調は異なり、黒色から褐色調、灰色調などさまざまである(melanotic type)。

10%程度で無色素性の腫瘍(amelamotic type)もみられる。

メラノーシスとの鑑別には生検。

生検部位は隆起成分以外に基部周囲の粘膜からの生検も重要。従来は禁忌とされていたが、確定診断になることや生存成績に差がないことから鑑別には生検診断が有用とされている。

咽頭癌や食道癌:

食道メラノーシスを有する症例では下咽頭癌や食道癌との合併が多いため注意が必要。

  • 孤立性静脈拡張(solitary venous dilatation)

孤立性静脈瘤や孤在性静脈瘤とも呼ばれる。

食道の上・中部に認められる孤在性の青色小隆起。しかし、約20%は下部食道にみられる。

限局性に拡張した粘膜下静脈の他に食道腺の貯留嚢胞などがある、とされる。

門脈圧亢進症の亢進に伴う静脈瘤や、上大静脈圧の上昇に起因するdownhill varicesとは異なった疾患と考えられている。

自然経過で、増大や縮小・消失する例もあるが、症状はなく臨床的に問題となることはない。

内視鏡

通常観察で、軟らかい隆起で、送気・脱気のみで変形し、鉗子による圧排で容易に凹む。

・鑑別

食道粘膜下腫瘍(平滑筋腫、脂肪腫、リンパ管腫など):

色調や鉗子による触診で鑑別は容易。

  • 食道噴門腺

食道胃接合部付近に認められ、1~5mmで多発する事が多い。露出型と非露出型がある。

露出型は、内視鏡では円形で平坦な発赤として観察され、ヨード染色では不染を呈する。NBI通常観察では茶色、NBI拡大観察では細長いpit様構造またはvilli様構造を認める。

非露出型は、透明感のあるSMT様の小隆起として観察される。

  • 異所性胃粘膜(ectopic gastric mucosa)

胃粘膜の組織学的特徴が胃の境界の外側に異所性に認められるもの。

主細胞や副細胞を持つ胃底腺粘膜から成り立つことが多く、全消化管に生じうる。

食道入口部から頚部食道にかけて認められることが多い。

内視鏡

通常観察で、周囲の食道粘膜との対比から赤みを帯びてみえ、淡赤色を呈する。

境界は明瞭で、円型や楕円形の形態を示すものが多く、大きさは様々。

孤立性あるいは多発性に出現する。

ヨード染色で、不染帯を呈する。

NBI観察で、境界明瞭なBrownish areaを呈する。

NBI拡大観察で、胃粘膜と同様の腺上皮模様を認める。

・鑑別

表在食道癌:

NBI拡大観察が有用。拡張・蛇行・口径不同・形状不均一などを示すループ様の異常血管を認める。

軽症例では、無症状で基礎疾患のない人にみられる。

内視鏡では食道粘膜に細かい白苔が多発するのが特徴。

重症例では、免疫不全宿主(特に細胞免疫不全)や全身衰弱の強い患者にしばしばみられる。

内視鏡では、食道粘膜に付着する厚い白苔が特徴的。

重症のカンジダ性食道炎を見た場合は、AIDSなどの免疫不全を念頭に置き、全身検索が必要である。

 

照射野に一致して全周性に発赤やびらん、潰瘍を認める。

内視鏡では、放射線治療後の再生食道粘膜とは通常とは異なり、特徴的な変化として乳頭内血管の血豆状変化を認める。

これは固有粘膜層が放射線により線維化し、血流のドレナージが傷害される事が原因と考えられている。

放射線治療後数年が経過しても改善しない。

  • 食道乳頭腫

 

  • 炎症性ポリープ

内視鏡

表面平滑な発赤調隆起である。口側にmucosal break(粘膜傷害)を伴う事が多い。

拡大観察では、不整のない密度の低下したvilli様構造を認める。

逆流性食道炎では食道胃接合部に隆起を認めることがあり、炎症性ポリープと癌との鑑別が必要。

食物や空気中の抗原により食道上皮への好酸球浸潤を主とするアレルギー疾患。

 

内視鏡

白斑、縦走溝、輪状溝、輪状狭窄、敷石状変化、浮腫、血管透見消失などが認められる。

・画像

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/57/11/57_2503/_pdf/-char/en

食道上皮内好酸球数は生検部位によって不均一であり、特に食道下部の方に好酸球が多い傾向がある。

確定診断には複数個の生検で、上皮内に20/HPFの好酸球が存在することが必要。

 

参考

症例で身につける消化器内視鏡シリーズ 食道・胃腫瘍診断

胃と腸 所見用語集2017

胃と腸 55(3)2020