消化器内科takoitaのメモ

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急性胆管炎の診断と治療

 
  • 病態
胆管炎とは胆管内に急性炎症が発生した病態。
胆管内に著明に増加した細菌の存在、細菌またはエンドトキシンが血流内に逆流するような胆管内圧の上昇、の2因子が不可欠。

 

胆汁うっ滞に感染を伴い発症し、胆道内圧上昇により胆汁内の細菌やエンドトキシンが血中・リンパ流中へ移行する事で敗血症などへ進展しやすい。
 
  • 成因
①胆道閉塞
②胆汁感染
の2つが発症の要因となる。
 
①胆道閉塞
胆道閉塞の原因うち頻度が高いものは、胆石・悪性腫瘍・ステント閉塞・良性胆道狭窄・胆道の吻合部狭窄など。
 
②胆汁感染
胆汁は通常無菌性。
胆汁感染の危険因子は、高齢、緊急手術、急性胆嚢炎の既往、黄疸の存在・既往、総胆管結石、総胆管の検査や処置の既往、胆管空腸吻合術後、総胆管の閉塞など。
 
  • 予後
死亡率:2.7-10%
死因:非可逆性のショックによる多臓器不全が大半
 
  • 検査
・血液検査
WBCCRP・AST・ALT・T-Bil・γ-GTP・ALPの測定が必要。
 
血中膵酵素の測定は有用。
血中AMY濃度は約1/3の症例で上昇し、膵障害及び原因が胆道結石である事を示唆する。
急性胆管炎に胆石性急性膵炎が併発しているかの鑑別が重要。
 
腫瘍マーカーCA19-9及びCA125は急性胆管炎で上昇することがある。
原因疾患の良悪性の鑑別には胆道ドレナージなどによる胆管炎の治療後の値が参考となる。良性疾患では通常速やかに正常値となる。
 
・画像検査
エコー:技量や状態に左右されやすいが低侵襲性などから推奨される。
CT:結石の吸収値は結石内のカルシウム濃度に依存するため、l胆道結石の検出感度は25-90%に留まる。臨床的にはその他の急性腹症を除外できるCTがエコーより先に撮られる事も多い。
造影CTは胆道狭窄の原因診断(胆道癌・膵癌・硬化性胆管炎など)の向上に大きく貢献する。造影CTは局所合併症(肝膿瘍・門脈血栓など)の診断にも有用。
ダイナミックCTでは直接的に胆管の炎症を反映した一過性早期濃染(THAD)により、急性胆管炎の診断に寄与する場合がある。
MRCP:胆管結石や悪性疾患の描出には良好である。
 
  • 診断基準
A.全身の炎症所見
 A-1.発熱(悪寒戦慄を伴う事もある)
 A-2.血液検査:炎症反応所見(WBC>10000or<4000、CRP≧1)
B.胆汁うっ滞所見
 B-1.黄疸(TBil≧2)
 B-2.血液検査:肝機能検査異常(ALP>1.5×STD、γGTP>1.5×STD、AST>1.5×STD、ALT>1.5×STD)
C.胆管病変の画像所見
 C-1.胆管狭窄
 C-2.胆管炎の成因:胆管狭窄、胆管結石、ステントなど
確診:Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの
疑診:Aのいずれか+BもしくはCのいずれかを認めるもの
 
  • 重症度判定
・重症急性胆管炎(GradeⅢ)
以下のいずれかを伴う場合
循環障害(ドーパミン≧5μg/kg/minもしくはノルアドレナリンの使用)
中枢神経障害(意識障害)
呼吸機能障害(PaO2/FiO2<300)
腎機能障害(乏尿もしくはCr>2.0mg/dL)
肝機能障害(PT-INR>1.5)
血液凝固障害(血小板<10万/mm3)
 
・中等症急性胆管炎(GradeⅡ)
初診時に以下の5項目のうち2つ該当するものがある場合には中等症とする
WBC>12000 or <4000
発熱(体温≧39℃)
年齢(75歳以上)
黄疸(総ビリルビン≧5mg/dl)
アルブミン(<健常値下限×0.73g/dL)
上記の項目に該当しないが、初期治療に反応しなかった急性胆管炎も中等症とする。
 
・軽症急性胆管炎(GradeⅠ)
急性胆管炎のうち、「中等症」「重症」の基準を満たさないものを「軽症」とする
 
  • 治療
・重症
重症化を認める場合は、適切な臓器サポートや呼吸循環管理とともに緊急胆道ドレナージを考慮する必要がある。
DICを伴う場合は、rTM(リコモジュリン)の投与を考慮しても良い。
初期治療(抗菌薬・十分な輸液・鎮痛剤)
ある程度全身状態を改善させてから、出来るだけ早く内視鏡的または経皮経肝的胆管ドレナージを行う
成因に対する治療が必要な場合は全身状態が改善してから行う
 
・中等症
早期の内視鏡的または経皮経肝的胆管ドレナージの適応。
 
初期治療(抗菌薬・十分な輸液・鎮痛剤)
成因が対する治療が必要な場合は全身状態が改善してから行うが、総胆管結石に対するESTと結石除去術は胆管ドレナージを兼ねて行っても良い
 
・軽症
抗菌薬を含む初期治療で十分な事が多い。
殆どの症例で胆管ドレナージは必要ではない。術後の胆管炎は抗菌薬投与のみで軽快する事が多く、胆管ドレナージが必要でないことが多い。
しかし、初期治療に反応しない場合は胆管ドレナージを考慮するべき。
総胆管結石に対するESTと結石除去術は胆管ドレナージを兼ねて行っても良い。
 
絶食は緊急ドレナージに即応するために推奨される。病状への質の高いエビデンスは無い。
鎮痛剤は、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬とその類似薬(非麻薬性鎮静薬、pentazocineなど)はOddi括約筋収縮作用のため胆道内圧が上昇する可能性があるため慎重な投与を要する。
 
 
参考
急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018