消化器内科takoitaのメモ

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憩室出血の診断と治療

  • 病態
憩室出血は急性下部消化管出血の最多原因。

 

大腸憩室の多くは後天性・圧出性。正確なメカニズムは不明。腸管内圧の上昇と腸管壁の張力低下が関与していると考えられている。
NSAIDsやアスピリンはリスクを高めるとされる。
 
緊急大腸内視鏡エビデンスは弱く、定まった診断治療戦略が現時点で存在しない。
 
憩室出血の再発率は14~38%といわれ、3回目は50%近いともいわれている。
1年で20~35%、2年後で33~42%。(ガイドラインより)
 
重症消化管下部出血のリスク因子
収縮期血圧≦115mmHg
・脈拍数≧100bpm
・腹部圧痛なし
・失神の病歴
・受診後4時間以内に再下血
・合併症2個以上
0個→9%
1~3個→43%
4個~→84%
 
 
  • 鑑別
直腸肛門病変、虚血性腸炎、大腸癌、血管異形成、炎症性腸疾患、腸炎、上中部からの出血が鑑別となる。
 
多量の血便を呈する患者では、上部消化管出血との鑑別が必要。
BUN/Cre比や経鼻胃管または上部消化管内視鏡を用いて鑑別する。
 
急性直腸潰瘍、虚血性腸炎、腫瘍なども急性下部消化管出血例に含まれ、これらでは緊急時に必ずしも全大腸内視鏡を必要としない。
 
 
  • 診断
緊急下部内視鏡の出血源特定成績は必ずしも良くはない。
出血源を特定できた場合は、そのまま治療に移行できる特徴もある。
大腸内視鏡検査は可能なら24時間以内に推奨される。
禁忌例を除いて経口洗浄剤を用いた前処置が推奨される。ポリープ切除後出血や直腸潰瘍のように出血性疾患が予測される場合は、経口洗浄剤以外の前処置、または前処置を行わないことも許容される。
 
造影CT検査にて出血源を検索する方法もある。全例ではなく、患者や施設の状況に応じる。
しかし、単純CTだけでも憩室の分布もわかり、他の出血源の検索もできて有用。
造影CTならextravasation(血管外漏出)を検索する。
 
・Step-clipping法
造影CTでのextravasationを認め、内視鏡で出血源が不明の場合は、Step-clipping法の選択肢もある。
間隔をあけて複数個のクリップを打ち、CO2が吸収される2時間後くらいに単純CTを撮って比較するやり方。
 
 
  • 治療適応
自然止血率は70~90%との報告もある。(ガイドラインより)
 
・治療適応
治療適応は以下の通り。(ガイドラインより)
①活動性出血
②非出血性露出血管
③除去によって①または②を示す付着凝血塊はSRH(stigmata of recent hemorrhage)と定義され、SRHを有する大腸憩室に内視鏡的止血術を行う事が推奨される。
 
大腸憩室があるがSRHなどの出血源はなく、他に下部消化管出血の原因がない場合は、大腸憩室出血の疑いとして診断に含めて考えて良い。
 
 
クリップ法(直達法または縫縮法)、結紮法(バンド結紮法または留置スネア法)、エピネフリン局注法、凝固法、Over-the-scope clip(OTSC)などがある。
 
・直達法(direct placement)
憩室内の露出血管をピンポイントでクリッピングして止血を得る方法。
活動性出血の場合に多量の血液でピンポイントのクリップが難しい場合もある。また、憩室の開口部が小さい症例ではそもそも憩室内の観察ができない場合もある。
 
・縫縮法(indirect placement)
直達法が難しい場合に、クリップ複数個で憩室ごと塞ぐやり方。
その場の止血はできても再出血が多い可能性もある。
 
・バンド結紮法(endoscopic band ligation:EBL)
バイスがゴムバンド。一般的にはこちらが多い。住友ベークライトから専用デバイスも販売されている。ロングフード使用が多い。
それまではEVLデバイスが使用されていたが、適応外使用であった。
責任憩室の近くにマーキングクリップを打ち、一旦抜去してスコープ先端にデバイスを装着する。
そのままEVLと同じ要領で吸引しO-ringをリリースする。
基本的には結紮された憩室自体がその後瘢痕化・消失する。
そのため、クリップ法より再出血率は10%前後と低くなる。
しかし、憩室は筋層が欠損しており大腸穿孔の可能性を常に考える必要がある。結紮が浅くならないように。
また、憩室炎の報告もある。
 
憩室が硬かったり、憩室が大きすぎてフードに入りきらない症例や十分に吸引反転できない症例(近くの他の憩室や虫垂開口部のため)では結紮法は難しい。
 
・留置スネア法(endoscopic detachable snare ligation:EDSL)
バイスが適応外使用。現時点では施設での倫理審査承認が求められるらしい。
ロングフード使用が多い。
スネア径によるが、フード径よりも大きい場合はフード径と同じくらいまでスネアを予め締めておくとスムーズ。
マーキングクリップを打つ。鉗子口からデバイスを出す。
EBLと違いスコープ抜去がいらないためスムーズである。
 
再出血時は結紮し直すのは困難であり、追加でクリップ治療を行い止血する。
スネアの脱落による再出血例もある。
 
  • 動脈塞栓術
内視鏡検査・治療に不応な大量で持続する出血の患者では、循環動態を管理しながら、侵襲性の低い動脈塞栓術が推奨される。
血管造影で出血源を同定できた場合、動脈塞栓術の有効性は高い。
合併症は塞栓に伴う腸管虚血とそれに伴う穿孔や狭窄。
 
 
  • 手術
内視鏡治療や動脈塞栓術が不成功であった重症例は、術中内視鏡を視野に入れつつ外科コンサルトとなる。
手術は合併症発生率は高く、可能な限り避ける努力を行う。
 
治療的バリウム注腸という手段も報告されている。エビデンスはまだ乏しい。
また、バリウムが残存するとその後の内視鏡治療、動脈塞栓術、大腸切除術に難渋するため現時点では実施しない事が推奨れる。
 
 
  • その後の経過
大腸内視鏡検査で出血源の検査後は2~3日前後の経過観察で退院可能と考えられる。
食事の開始に基準はないが、内視鏡後48時間止血を確認できたら食事を開始し、再出血がなければ退院可能とするのがひとつの参考例。
 
NSAIDsは可能なら中止することが再発抑制につながる。
 
 
 
 
参考
Hospitalist 消化管疾患
大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン