消化器内科takoitaのメモ

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消化管神経内分泌腫瘍(NEN、NET、NEC)

神経内分泌腫瘍(NEN,neuroendocrine neoplasm)

 

 
神経内分泌細胞由来の腫瘍のことをさす。
 
診断
粘膜深層にある内分泌細胞/APUD細胞より発生し膨張性に発育するため、典型的には表面平滑で類円形、半球状、無茎性の粘膜化腫瘍様隆起を呈する。
色調は黄色調の事が多いが、正常色調である事もある。
増大すると表面に中心陥凹や潰瘍形成を伴うことが多い。
隆起の立ち上がりは無茎性である事が多いが、亜有茎性の立ち上がりを示すこともある。
表面の拡張した血管透見もよくみられる所見である。
 
消化管NECは発育速度が非常に速く、進行した状態で発見される事が多い。
2型進行癌の形態をとる場合が多く、周堤などの隆起部は非腫瘍性上皮で被覆されている事が多い。
 
  • 病理
NETには多彩な組織亜型が存在する。
 
機能性腫瘍の該当ホルモンによる免疫染色は、機能性腫瘍の責任病変の検索に有用。
多発病変では必ずしも最大の腫瘍が責任病巣とは限らないため、複数の病変での評価が求められる。
多くのNENではソマトスタチン受容体2(SSTR2)が発現しており、SSTR2の免疫染色は、腫瘍の分化度評価やソマトスタチンアナログ治療効果の推定に有用。
 
Ki-67は細胞増殖関連核抗原。
陽性細胞の割合がKi−67指数として規範され、病変の細胞増殖動態をある程度正確に反映する。
 
NET G3は高分化腫瘍、NECは低文化癌腫であり、生検でも多くの場合は鑑別可能。
しかし、時に両者の鑑別が困難な事がある。
NET G3は、基本的にG1やG2と同様。
境界明瞭な髄様性・膨張性の充実腫瘤を形成し、比較的緩徐な発育を示す。
組織学的に神経内分泌分化を示す緻密な類器官構造(索状、胞巣状、偽腺管状など)をとり、細胞異形は軽度〜中等度にとどまる。腫瘍内部にNET G1やG2に相当する成分が共存する。
SSTR2の発現は、明瞭な陽性所見がびまん性に見られる。
 
NECは、境界不明瞭な髄様性腫瘤を形成し、急速な発育を示す。
組織学的に高度異型細胞が大型胞巣状〜シート状・びまん性の増殖を示し、類器官構造は不明瞭となる。
Ki−67指数はたいてい50%を超える異常高値を示す。
また、高頻度に広い壊死巣がみられる。
SSTR2の発現は、部分的陽性、弱陽性あるいは陰性である事が多い。
悪性度の極めて高い腫瘍にみられるp53蛋白のびまん性過剰発現、Rb蛋白のびまん性欠失、CDKN2A/p16蛋白のびまん性過剰発現がみられる。
この免疫染色はNET G3とNECの鑑別に有用である。
 
 
診断
  • 生検
内視鏡所見より消化管NETが疑われた場合は、診断確定のため内視鏡下生検を行う。
NETは粘膜下腫瘍様の形態を示すが、粘膜深層から発生した病変であるため、内視鏡下生検による組織学的診断率は高い。
通常の生検で陰性の場合、ボーリング生検やEUS−FNA、粘膜下層までにとどまる病変であれば内視鏡的切除による治療的診断が
検討される。
同時性に肝転移を有する場合は肝腫瘍生検からの診断も可能である。
増悪時はKi−67指数が上昇しgradeが原発巣と異なる場合があり、増悪時の治療選択にあたっては再生検も考慮する。
 
  • EUS
治療方針決定のために深達度診断、腫瘍サイズ計測が重要であり、EUSが有用である。
消化管NETは境界明瞭な低エコーの腫瘤として描出され、深達度診断能は高い。
 
  • 画像検索
転移検索にはエコー、CT、MRI、PETなどが行われる。
 
 
 
分類
  • ホルモン症状の違いによる分類
ホルモン産生症状を有する機能性とホルモン産生症状のない非機能性に分類される。
 
・機能性NET
腫瘍から分泌されるペプチドやアミンなどによって特異的臨床症状を呈する腫瘍。
機能性腫瘍では特徴的なカルチノイド症候群が認められる。
 
・非機能性NET
特異的な臨床症状はない。
 
 
  • 悪性度による分類(WHO分類2019年)
核分裂数とKi-67 indexによる病理組織学的grading。
 
NET G1(carcinoid)
NET G2
NEN G3
NEC small cell type(SCNEC)
NEC largecell type(LCNEC)
MiNEN
に分類する。
 
高分化NET(G3)と低分化NECでは、予後、治療、バイオマーカーも異なる事が判明し、現在ではNET G3とNECは異なる腫瘍と考えられている。
NET G3とNECは、NET G3ではATRX/DAXXの遺伝子変異があり、p53やRbなどの遺伝子変異はみられず、NECとは逆の関係にあるという差異がみられ、遺伝的に異なる腫瘍と位置付けられている。
NET G3ではSSTR2の発現がより高頻度にみられる。
 
MiNENは、非神経内分泌腫瘍と神経内分泌腫瘍が混在するもの。
mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasms。
以前はMANECと呼称。
遺伝子レベルでは、両者とも共通のKRAS変異、p53変異などを認め、衝突癌ではなく単一クローン性の腫瘍と考えられている。
 
 
 
grading
核分裂数(10HPF)
Ki-67 index(%)
NET G1
well differentiated
low
<2
≦2%
NET G2
 
intermediate
2~20
3~20%
NET G3
 
high
>20
>20%
SCNEC
poorly differentiated
high
>20
>20%
LCNEC
 
high
>20
>20%
MiNEN
well or poorlydifferentiated
variable
variable
variable
 
 
  • 消化管NETの発生部位による分類
 
前腸
中腸
後腸
局在部位
胃、十二指腸、気管支
空腸、回腸、虫垂、上行結腸
横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、泌尿生殖器
組織学的所見
Trabecular
Solid mass of cells
Mixed
銀染色
好銀性
銀親和性
Variable
分泌物
5-ヒドロキシトリプトファン
multiple polypeptides
プロスタグランジ
Variable
肝転移
胃:20~25%
小腸:35%
上行結腸:60%
虫垂:2%
直腸:腫瘍径>2cmでは<10%
カルチノイド症候群
非定型的+まれ
古典的
まれ
 
 
  • 胃NETのRindi分類
胃NETを基礎疾患、高ガストリン血症の有無から分類したもの。
 
Ⅰ型
Ⅱ型
Ⅲ型
背景疾患
萎縮性胃炎(A型胃炎、H.pylori胃炎)
MEN1型/Zollinger-Ellison症候群
散発性(基礎疾患のないもの)
血清ガストリン値
高値
高値
正常
胃酸分泌
低下
亢進
 
悪性度
 
 
  • 胃NETの臨床分類(胃と腸54(7)2019より)
 
Ⅰ型
Ⅱ型
Ⅲ型
背景疾患
萎縮性胃炎(A型胃炎、H.pylori胃炎)
MEN1型/Zollinger-Ellison症候群
散発性(基礎疾患のないもの)
頻度
70-80%
5-10%
<20%
血清ガストリン値
高値
高値
正常
腫瘍の個数
多発
多発
単発
腫瘍径
<1cm
<1cm
2-5cm
好発部位
胃穹窿部・胃体部
胃穹窿部・胃体部
どこでも
転移
<5%
<10%
>50%
組織学的分類
高分化
高分化
通常、低分化
予後
よい
よい
悪い
 
 
治療
  • 食道NEN
・治療方針
NETの場合:
リンパ節転移のない早期病変は、内視鏡的切除手術適応となる。
局所進行病変は、手術。
切除不能病変は、薬物療法
 
NECの場合:
切除可能(Ⅰ〜Ⅲ期)の場合、手術(±化学療法)または根治的化学放射線療法となる。
 
 
  • 胃NET
・治療方針
胃NETはRindi分類でⅠ~Ⅲ型に分類される。
 
・Ⅰ型
Ⅰ・Ⅱ型は転移率が低く、腫瘍径が1cm以下、深達度が粘膜下層までにとどまる腫瘍で、個数が6個未満であれば、内視鏡治療の適応となる。
Ⅰ型は良性の性質を示すため、経過観察で良いとの意見もある。
10mm以下で深達度が粘膜下層までの腫瘍の転移率は8.3%と比較的低いが、11~20mmとなると転移率は16.4%に上昇する。
 
10mm未満、sm(粘膜下層)以浅のⅠ型は経過観察または内視鏡治療の方針が選択される。
10mm以上20未満で固有筋層への浸潤がなくリンパ節転移のない場合、内視鏡適切除の適応は十分なエビデンスがまだない。
 
内視鏡的に切除不可、浸潤傾向を示す、多発、などで内視鏡的完全切除が困難な場合、胃切除術が考慮される。
 
 
・Ⅱ型
Ⅱ型の内視鏡治療適応は基本的にⅠ型に準ずる。
Ⅱ型はⅠ型より悪性度が高いとする報告もあり、注意が必要。
MEN1に合併しており、十二指腸病変に対する外科治療が主体となる。
 
腫瘍径が10mm以上か脈管侵襲が示唆される場合は胃切除術を選択する。
 
 
・Ⅲ型
Ⅲ型は悪性度が高く、基本的に内視鏡治療の適応とならない。
 
外科治療としては、遠隔転移がなければ広範囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を行う。
 
 
 
 
・注意点
なお、消化管NETで内視鏡治療の適応とされる病変は数%のリンパ節転移率を伴うことに留意し、十分なインフォームド・コンセントが必要である。
術後の経過観察は内視鏡とともにCT等を用いて注意深く行う。
 
内視鏡治療の手段
病変の多くの深達度はsmのため、切除断端を陰性にするため、EMRは吸引法や2チャンネル法、アンダーウォーター法などがある。
ESDについては、エビデンスの集積中。
 
・外科手術
 
 
 
  • 十二指腸NET
内視鏡的切除の適応
内視鏡的切除術の有効性はエビデンスがまだ集積されていない。
 
腫瘍径1cm未満、深達度sm以浅は転移率が比較的低く、適応の可能性がある。
 
十二指腸ガストリノーマは転移率60%あり、開腹手術でのリンパ節郭清が必要。
 
内視鏡治療の手段
1cm未満にはEMRを考慮しても良い。ただし、偶発症のリスクも高く、習熟した施設が望まれる。
ESDはデータ不足。
十二指腸は腸管壁が薄く、内視鏡的粘膜下層剥離術では穿孔のリスクがあるため、鏡視下十二指腸部分切除術、あるいは腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS:laparoscopic endoscopic cooperative surgery)は望ましい。臨床試験段階。
 
 
・手術適応
ガストリノーマ以外の非乳頭部NETの手術を考慮するのは以下の場合。
①腫瘍径が1cm以上の場合
②固有筋層以深の腫瘍浸潤を伴う場合
③リンパ節転移を伴う場合
内視鏡切除標本で切除断端陽性所見や脈管侵襲所見を認める場合
⑤Ki−67高値を認める場合
上記の場合は手術が推奨される。
術式はリンパ節郭清を伴う切除術が推奨される。
 
乳頭部NETは基本的に手術が推奨される。
 
・手術術式
腫瘍の局在と進展程度で決定される。
十二指腸部分切除術、膵島十二指腸切除術、膵温存十二指腸全切除術などを選択する。
 
散発性十二指腸NETの初発再発はリンパ節再発の頻度が高いため、過不足のないリンパ節郭清が推奨される。
 
 
  • 小腸NET
根治的切除が可能な場合、切除術が推奨される。
 
 
  • 虫垂NET
すべて手術適応。
 
 
  • 結腸NET
内視鏡的切除の適応
結腸NETの内視鏡的切除は直腸NETに準じる。
 
・手術適応
以下の場合に手術が考慮される。
①腫瘍径が1cm以上、G2以上、固有筋層浸潤または局所リンパ節転移のいずれかが疑われる
内視鏡的切除標本において、脈管侵襲、固有筋層浸潤、切除断端陽性またはG2以上のいずれかが存在
 
・術式
リンパ節郭清を伴う結腸切除術
 
 
  • 直腸NET
内視鏡的切除の適応
腫瘍径1cm未満、深達度が粘膜下層以浅はEUSやCTでリンパ節転移や遠隔転移がなければ、内視鏡的切除が推奨される。
 
切除標本の病理診断で、脈管侵襲・多数の核分裂像・Ki-67指数高値・高いグレード(G2)などを認める場合は、追加治療を検討する。
 
内視鏡治療の方法
ESDやmodified EMR(キャップ法や2チャンネル法)は局注とスネアリングのみのEMRと比較して有意に完全切除率が高い。
ESDとmodified EMR間では完全切除率に差がないとする報告が多い。
 
TEM(経肛門的内視鏡下マイクロサージャリー)は局所切除法として安全で低侵襲な治療法。
EMR後の遺残症例を含めて高い切除断端陰性率が報告されている。
 
・手術適応
以下の場合。
①腫瘍径が1cm以上、G2以上、固有筋層浸潤または局所リンパ節転移のいずれかが疑われる
内視鏡的切除標本において、追加治療要因のいずれかが存在する場合
 
 
 
 
NECはNETG1G2と異なり極めて予後不良
 
・治療
肺小細胞癌治療に準じたプラチナ系製剤を含む併用療法が推奨される。
根治的切除が可能な局所領域病変であっても、手術単独での治療成績は極めて予後不良
手術単独療法は推奨されない。
 
 
 
 
参考
膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019
胃と腸54(7)2019