急性膵炎の診断・治療
- 症状
初発症状としては頻度順に
腹痛(特に心窩部痛)(88.6%)
嘔気・嘔吐(18.7%)
背部痛(11.1%)
高熱(5.0%)
が認められやすい
炎症が広がれば発熱・腹膜刺激症状が出現する
後腹膜に炎症が限局している場合、前かがみで疼痛が改善するのが特徴
消化管に炎症波及が強くあると腸閉塞となるため、炎症反応を伴う腸閉塞でも急性膵炎は鑑別に考えなければならない。
状態が悪化すればARDSやショック、意識障害を呈する。
皮下出血斑にはGrey-Turnner徴候(側腹壁)、Culen徴候(臍周囲)、Fox徴候(鼠径靭帯下部)がある。
出現頻度は3%未満であり、発症後48–72時間 多くは数日以上経過で出現するため、早期診断に向かない。
- 診断基準
1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
2.血中または尿中に膵酵素の上昇がある
3.超音波、CT、MRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある
上記3項目中の2項目を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。
- 血液検査
リパーゼは血清AMYと感度は同等であるが特異度は高い
リパーゼもAMYも発症後3–6時間で上昇し、24時間でピークとなる。AMYは48–72時間以内に正常化するが、リパーゼは1–2週間かけて正常化する。
AMY,p-AMY,リパーゼは正常上限2倍が基本的なカットオフの目安となる
AMYの正常上限1.8倍で感度92.3%、上限3.1倍で60.9%
リパーゼも上限3倍で感度55%である
3倍以上なら特異性は99%であるが感度の低下に注意。
ガイドラインの診断基準には血中または尿中膵酵素の上昇が含まれており、膵特異性の高いもの(p-AMYやリパーゼ)の測定が望ましいとのこと。
- 画像検査
胸腹部Xp検査はcolon cut off signやsentinel loop sign、左腸腰筋陰影の消失はあまり見られることは少ない。ただし、膵炎の臨床経過の評価や消化管穿孔との鑑別のために有用であり、撮影には意義がある。
エコーは有用だが膵の描出が難しいことも多い。膵全体が描出できないまま膵炎を否定してはいけない。
上記で診断がつかず疑うならCT検査は行った方が良い。
腎機能に問題ない場合は造影CTを積極的に取りに行く。
また、膵炎の原因となる胆道結石や出血を伴う膵壊死の診断にはMRIはCTより有用である。
- 重症度判定
急性膵炎の診断がつけば発症から48時間以内に重症度判定を行い、重症・軽症の判定をつける。
軽症例が重症化することもあるため、経時的に判定は繰り返す。
- 治療方針
治療方針を決める上で成因診断が必要となる。
胆石性急性膵炎かどうかの診断はERCPを行うかどうかに関わるのでまず胆石を探す
①胆石性の場合
胆管炎や胆道通過障害がある場合は緊急でERCPを行う
その後急性膵炎に準ずる治療を行う
緊急でERCP必要ない場合は待機的にERCPを行う
その後、胆石に対する外科的処置を考慮
②胆石性以外
軽症例では、末梢静脈路を確保し十分な輸液、絶食による膵の安静、除痛などを行う。
重症例ではより厳密な呼吸・循環管理が必要となってくる。
A. 輸液
血管透過性の亢進により高度の血管内脱水を呈するため、初期輸液に乳酸リンゲル液を用いた急速輸液を行う。
ショック又は脱水状態の患者(BUN≧20やHct≧44%やCr上昇が指標)に対しては150〜600ml/hで輸液開始。
脱水状態でない患者に対しては130〜150ml/hで輸液
腎不全・心不全患者では溢水に注意。
平均動脈圧65mmHg以上と尿量0.5ml/kg/h以上が確保されたら初期輸液を終了し輸液速度を下げる。
B.抗菌薬
軽症例では必要ないとガイドラインでは推奨されている。
重症例や壊死性膵炎には予防的に広域の抗菌薬を投与。
C.蛋白分解酵素阻害薬
ガベキサートメシル酸塩やナファモスタットメシル酸塩を投与。
エビデンスが難しく経症例では必要ない?重症例に対する投与もガイドラインには更なる検討が必要とのみ。
D.鎮痛
急性膵炎の疼痛は激しく持続的なため十分なコントロールを行う。
E.栄養療法
軽症例では中心静脈栄養は必要ない。
重症例では中心静脈栄養が必要となるが、なるべく経腸栄養(空腸まで挿入した経腸栄養チューブを用いた)を併用すべき。(感染症発生率が低下するらしい)
- その他
死亡率:軽症例 0.8% 重症例 10.1%
再発率:重症急性膵炎 20.3% アルコール性膵炎 32.4% 胆石性膵炎 7.4%
参考
ジェネラリストのための内科診断リファレンス
消化器内科グリーンノート
急性膵炎診療ガイドライン2015