消化器内科takoitaのメモ

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自己免疫性膵炎の診断と治療

自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis;AIP)

  • 病態

病因や病態は解明途中。

しばしば閉塞性黄疸で発症し、時に膵腫瘤を形成する特有の膵炎。

リンパ球と形質細胞の高度な浸潤と線維化を組織学的特徴とし、ステロイドに劇的に反応することを治療上の特徴とする。

 

血性IgG4の上昇とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤を伴う膵外病変が特徴であり、今ではIgG4関連疾患の膵病変と考えられている。

1型と2型に分類され、我が国では主として1型であり、単なる自己免疫性膵炎は1型を意味する。

・1型

高年の男性に多く、膵の腫大や腫瘤とともに、しばしば閉塞性黄疸を認め、しばしば硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、後腹膜線維症などの膵外病変を合併する。

高γグロブリン血症、高IgG血症、高IgG4血症、あるいは自己抗体陽性を高頻度に認め、現在ではIgG4関連疾患の膵病変と位置付けられている。病理組織学的には、著明なリンパ球やIgG4陽性形質細胞の浸潤、花筵状線維化(storiform fibrosis)、閉塞性静脈炎を特徴とし、lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と称される。ステロイドが奏功するが、長期予後は不明であり、再燃しやすく膵石合併の報告もある。

・2型

臨床的に血液免疫学的異常所見に乏しく、1型と同様にステロイドに反応する閉塞性黄疸や腫瘤を認めるが、病態生理や病理組織学的には全く異なり、好中球が小葉間膵管上皮を破壊する好中球上皮病変(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とし、欧米では IDCP あるいは AIP with GEL と報告されてきた。

男女差はなく、比較的若年者にみられ、時に炎症性腸疾患を伴うとされるが、わが国では極めてまれであり、実態は不明。

血中IgG4値正常の1型AIPとの鑑別は臨床所見のみでは困難であり、確定診断には病理組織所見が必要。

この記事は基本的に1型を記述する。

  • 症状

自己免疫性膵炎に特徴的な症状はない。

腹痛は無~軽度であり、閉塞性黄疸、糖尿病症状、随伴する膵外病変による症状を呈する事が多い。

受診のきっかけは軽度の腹痛、全身倦怠感、黄疸、口渇感など。膵酵素異常や肝胆道系酵素異常、CA19-9高値、画像での膵腫大が契機となる事もある。

2型自己免疫性膵炎では腹痛が多く、しばしば急性膵炎を伴う。

  • 診断

・診断基準2013

 

  • 画像所見

・エコー

びまん性腫大では、全体的に低エコーを呈しソーセージ様に腫大する。主膵管拡張を認めない事が多い。腫大部は低エコーを呈し、高エコースポットが散在する場合がある。

限局性腫大の場合は、膵癌や腫瘤形成性膵炎との鑑別が問題となる。主膵管拡張を認めないことが多いが、時に軽度の拡張を認める事があり、その場合鑑別困難となる。腫瘤内に主膵管が描出される事が膵癌との鑑別に役立つ所見(duct penetrating sign)として有用である(図2)。また、膵実質内に低エコー腫瘤像が多発する事があり、悪性リンパ腫や転移性膵腫瘍との鑑別に苦慮する場合がある。

胆管壁の肥厚を認める事があり(約60%)、層状あるいは低エコー実質様の壁肥厚が特徴である。

 

・CT

ダイナミックCTでは、膵実質は線維に置換されているため、膵実質相では増強効果は低下し正常膵と比較して低吸収を示す。線維化部分は遅れて増強効果があるため、門脈相である程度増強効果がみられ、更に増強され続けて遅延相では正常膵よりも強く増強される。このようなゆっくりと増強される遅延性増強パターンが特徴的。

ただし、線維化の程度が弱ければ正常膵とほぼ同等の増強パターンを示すので、遅延性の増強を認めなくても自己免疫性膵炎を否定はできない。

被膜様構造(capsule-like rim)を認めれば、自己免疫性膵炎である可能性が高い。

これは病変全体または一部を取り囲むようにみられる帯状の構造物で、膵実質相では病変部の膵実質よりも低吸収を示し、ダイナミックCTでは遅延性増強パターンを示す。

自己免疫性膵炎に特異的な所見であり、とくに限局性腫大の場合、膵癌との鑑別に役立つ。

 

  • 治療

AIP、IgG4関連硬化性胆管炎の多くの症例ではステロイド治療が有用。

閉塞性黄疸や糖尿病の合併する場合には、胆道ドレナージによる減黄や血糖コントロールを行った後にステロイド治療をすることが推奨される。

ステロイドの投与法に定まったものはないが、初期投与量はプレドニゾロン30~40mg/日(0.5~0.6mg/kg)から開始し、2~4週間投与し、1~2週間ごとに5mgづつ減量し、維持量(2.5~10mg/日)にする方法が多くの施設で行われている。

この際に血清γグロブリン値・IgG・IgG4値,腹部画像所見,黄疸,腹部不快感などの臨床症状などの経過が参考になる。

中には自然緩解例やステロイド離脱できる症例もあるが、中止後再燃する症例では5~10mg/日を維持量とされる事が多い。

ステロイドの投与期間に関するコンセンサスはないが、AIPでは、ステロイド治療開始3年以後の再燃例は少なかったことより、画像診断および血液検査で完全な改善が得られた症例では3年間の継続がひとつの目安と考えられている。

ステロイド治療により糖尿病の改善する例も多いが、悪化する例もあるため、十分なインフォームドコンセントのもとに治療をする必要がある。

膵癌や胆管癌などの腫瘍性病変との鑑別が極めて重要であり、ステロイド投与による安易な治療的鑑別診断は続けるべきでなく、ステロイドの効果が見られないときは早期に減量・中止し、再度鑑別診断を行う必要があり、悪性腫瘍を否定できないときは躊躇なく外科的切除を考慮すべきである。

 

  • 予後

自己免疫性膵炎、IgG4関連硬化性胆管炎はステロイド治療により短期的には比較的良好な転帰が期待できる。

しかし、長期の予後(転帰)に関しては再燃、膵機能面、悪性腫瘍併発など、いづれの疾患においても未だ不明な点が多い。

AIPの中には通常の慢性膵炎に進展したり、膵石症の合併例の報告もある。

AIPに膵癌および他の悪性腫瘍併発の報告が近年増加してきていが、関連性の有無については、今後の検討課題である。

 

 

参考

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/33/6/33_902/_pdf/-char/ja

https://www.jsge2020.org/post/data/106pgc_test.pdf