消化器内科takoitaのメモ

消化器内科医takoitaのメモ

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失神の鑑別

  • まず、失神とそれ以外を鑑別する

     

 
鑑別:意識障害、痙攣、めまい
 
痙攣との鑑別は
 
失神の定義
①瞬間的な意識消失発作(突然発症)
②姿勢保持筋緊張の消失(立っていることが困難)
③発作後意識はほぼ正常(数秒から数分で意識が改善する)
 
 
  • 失神の鑑別診断
心原性:心疾患(AMIなど)、不整脈、閉塞性疾患(ASや肥大型心筋症など)
血管性:急性大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂、肺塞栓
神経調節性:神経心原性失神(迷走神経反射など)、自律神経障害(起立性低血圧など)、TIA(TIAではめったに起こらない!)など
低容量性:脱水、出血
 
①心血管性の否定
②消化管出血・腹腔内出血・異所性妊娠など出血による起立性低血圧を否定
③上記と並行して外傷検索
④上記否定的で入院必要な外傷なく神経調節性失神と診断できれば帰宅可能
 
 
  • 失神の場合の検査など
バイタル:
頻脈なら起立性低血圧(消化管出血・脱水etc)
徐脈なら徐脈性不整脈・薬剤性など
神経調節性失神は失神後の時間経過とともに徐脈→頻脈へ変化する事が多い。失神後(救急隊到着時)→診察時(病着時)の推移の確認も大事。
βブロッカーやCaブロッカー内服者では脈が遅くなる。脈だけで出血は否定できない。
 
病歴:大事、目撃者の話も大事
①発症様式:いつ、どのように気を失ったか、どういう姿勢か
排便後や起立時なら状況失神や起立性低血圧が疑われ、食事中や食後であれば食後低血圧が考えられる。
臥位の状態で起こったのであれば心血管性が疑わしい。
②意識:現在の意識は普段と変わらないか
意識障害との鑑別
③時間:どのくらいの間気を失っていたか
一般的に失神は数秒から数分である。遷延するなら意識障害となる、
④前駆症状の有無:「気が遠くなる」などの訴えがあったか
「立ちくらみのような頭から血の気のひく症状」「眼の前が真っ暗になった」、嘔気・発汗などの前駆症状を認める場合には神経調節性失神や起立性低血圧が疑われる。
胸痛や背部痛を訴える場合や前駆症状と伴わない場合は心血管性が疑われる。
⑤外傷の有無:どこかぶつけたか
⑥痙攣の有無:眼を上転させたり、手足をばたつかせるような動きがあったか
⑦失神後の対応:気を失った後横にしたか、座ったままか
 
失神後に座位や立位の状態で保持されると脳虚血が進行し痙攣に進展する場合がある(syncopal seiture)。
不整脈が原因で痙攣に至る事もあり、痙攣の場合には心血管性失神も考えねばならない。
 
 
 
ECG:必須
 
身体所見:うっ血性心不全の所見はないか、直腸診で黒色便がないか
 
血液検査:必須ではないらしいが、BNPやラピトロやD-dimerは心不全・AMI・肺塞栓症などの診断にも繋がるリスク因子らしい。疑う場合に追加して行っても良い?貧血やK、Creなども評価
 
血液ガス
貧血・血糖・酸素化換気・電解質異常など
痙攣の場合、乳酸値が上昇している場合が多い
 
エコー:ECG異常や心疾患の既往があればルーチンで行う、asynergy・弁膜症・右室拡大・心筋肥大・心内膜flap・心嚢液貯留、IVCの評価など得るものは多い、FASTも
見るべき所見
①心収縮力:心筋梗塞、心筋炎
②心嚢液貯留:心タンポナーデ、大動脈解離
③大動脈弁:大動脈弁狭窄症
④下大静脈経:血管内脱水
⑤FAST:腹腔内出血
 
頭部CT:脳神経系の異常を疑う病歴や身体所見があれば行う。くも膜下出血を示唆する頭痛、頭部外傷合併例、てんかん発作との鑑別が必要な例でも行う
 
立位負荷:仰臥位でバイタル正常、失神の原因不明の場合考慮する
 
妊娠検査:失神では意外と忘れるが完全に否定できなければ行う。
 
  • まずは心血管性を疑う
心血管性とは具体的には下記(HEARTS)
H Heart attack:急性心筋梗塞
E Embolism:肺血栓塞栓症
A Aortic dessection/Aortic stenosis:大動脈解離/大動脈狭窄症
R Rhythm disturbance:不整脈
T Tachycardia:心室頻拍
S Subarachnoid hemorrhage:クモ膜下出血
 
ECGにて不整脈やST変化あれば精査(WPWやBrugada、QT延長を忘れない、家族歴も)
心エコーは当てるだけならすぐ。基本やるべき。心嚢液貯留あれば大動脈解離も考える。
大動脈解離なら心内膜にflapが見られる事もあるらしい。背部痛なくとも可能性はある。大動脈解離を疑うなら血圧左右両方で。
 
若年者ならQT延長症候群・肥大型心筋症・Brugada症候群を考えなければならない。家族歴を聴取。特にBrugada。
 
前駆症状なし・臥位発症・労作時発症・Coronary risk factorあり(冠動脈の家族歴・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・喫煙者)・大動脈解離/肺塞栓症を疑う所見あり・突然死の家族歴・心電図異常・高齢者(65歳以上)・心疾患を示唆する身体所見
 
 
 
 
  • 起立性失神
起立時あるいはhead up tilt試験で3分以内に少なくとも20mmHgの収縮期血圧の低下あるいは10mmHgの拡張期血圧の低下と定義。
 
消化管出血・腹腔内出血・異所性妊娠(子宮外妊娠)は否定したい。
立位にて目の前が真っ暗になるといかにもっぽい。出血源を探すため、タール便・空腹時心窩部痛・肝硬変などは調べる。直腸診も。
婦人科疾患も忘れない。月経血の問診。異所性妊娠の有無。子宮筋腫による過多月経での慢性貧血。
脱水の評価も忘れずに。
 
  • 外傷検索
外傷は肉眼的に全身検索を
 
 
  • 神経調節性失神
疑う所見は下記
①誘発因子
静止直立姿勢・貧血・高温環境・疼痛・血管内脱水・血を目にする・アルコール摂取・静脈内注射及び激情・低酸素血症
②失神前の症状として、発汗・蒼白・動悸・悪心・過呼吸・あくびなどの自律神経興奮による予兆
③失神後の症状として、嘔気・嘔吐・発汗・ほてり感・気分変調などが見られる
 
 
TIAで失神はほぼ起きない。なぜなら内頸動脈や椎骨動脈が一度に遮断される事は可能性として高くないため。
 
 
参考
失神の診断・治療ガイドライン(2012 年改訂版)
jmed51もう困らない救急・当直ver3
研修医当直御法度百例帖第2版