食道アカラシアの病態と治療
- 定義
下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害。
- 症状
嚥下困難、口腔内逆流、胸痛、体重減少、夜間咳嗽など。
- 診断
診断には①食道X線造影検査②上部消化管内視鏡検査③食道内圧検査④食道筋層の病理組織学的検査(手術症例)、などが有用。
①食道X線造影検査
1.食道の拡張・蛇行
2.食物残渣やバリウムの食道内停滞
3.食道胃接合部の平滑な狭小像(Bird beak sign)
4.胃泡の消失あるいは減少
5.食道の異常運動の出現
②上部消化管内視鏡検査
1.食道内腔の拡張
2.食物残渣や液体の貯留
3.食道粘膜の白色化・肥厚
4.食道胃接合部の機能的狭窄(送気では開大しないが、内視鏡は通過する。胃内反転による
巻きつき、めくれ込みを生じる)
5.食道の異常収縮波の出現
③食道内圧検査
1.下部食道括約部の嚥下性弛緩不全
2.一次蠕動波の消失
3.食道内静止圧の上昇(胃内圧より高い)
4.下部食道括約部圧の上昇
5.同期性収縮波の出現
1、2は主要所見。
- 分類
・食道内圧検査(HRM:high-resolution manometry)
シカゴ分類ver3
TypeⅠ: 嚥下後にpanesophageal pressurizationが見られないもの
TypeⅡ: 20%以上の嚥下でpanesophageal pressurizationが見られるもの
TypeⅢ: 20%以上の嚥下でspasmを認めるもの
TypeⅡは治療反応性がよく、TypeⅢは治療反応性が悪いことが報告されている。
・食道X線造影像
撮影方向は背腹。バリウムは100%硫酸バリウムを100ml。服用後1分で撮影し鎮痙剤を使用しない。
①拡張型
a.直線型(Straight type:S型)
食道の縦軸の蛇行の少ないもの。従来の紡錘型とフラスコ型を含める。
b.シグモイド型(Sigmoid type:Sg型)
食道の縦軸の蛇行の強いもの。食道右側への蛇行が強く、L字型を呈する場合に特に進行シグモイド型(Advanced Sigmoid type:aSg型)と呼称する。
②拡張度
食道長軸に直交する最大食道横径(d)によりⅠ度~Ⅲ度に分類する。
a.Ⅰ度(GradeⅠ):d<3.5cm
b.Ⅱ度(GradeⅡ):3.5≦d<6.0cm
c.Ⅲ度(GradeⅢ):6.0cm≦d
・Eckardtスコア
嚥下困難、逆流、胸痛、体重減少の4項目を0~3点で評価する。
・Vaezi score
嚥下困難、逆流、胸痛の3項目を0-5点で評価する。
・Champagne glass sign(CG)
巻き付きとは、胃内反転観察時に噴門粘膜が内視鏡に強く巻き付いている所見。
めくれこみとは、内視鏡を胃内に引き込むと食道粘膜が内視鏡とともに胃側にめくれこんでくる所見。
・病理組織像
a.GradeⅠ
ほぼ正常とかわらない神経節細胞・神経繊維を認める。
b.GradeⅡ
神経節細胞・神経繊維の減少・変性を認める。
c.GradeⅢ
神経節細胞・神経繊維が消失している。
- 治療
・薬物治療
下部食道括約部を弛緩させる薬剤として、カルシウム拮抗薬(アダラート®など)や亜硝酸薬(ニトロール®など)が使用されている。
自覚症状が強い例では薬物療法だけでは症状が完全に消失しない
・内視鏡治療
①拡張治療
内視鏡下にガイドワイヤーを胃内まで挿入し、ガイドワイヤーに沿って透視下にバルーンを胃食道接合部に留置後、低圧から開始し疼痛を見ながら徐々に拡張する。
有効率は66%~93%で、外科的治療と差がないとする報告もある。
若年者(40歳以下)の有効率は不良である。
拡張後4~6年後には33%以上が症状再発を有する。
②ボツリヌス毒素局注療法
100IUのA型ボツリヌス毒素を、内視鏡下に下部食道括約部に4ヶ所局注する。
6~12ヶ月で再発しやすい。
③経口内視鏡的筋層切開術
Peroral endoscopic myotomy(POEM)
経口内視鏡下に食道粘膜下層で筋層切開を行う方法。
・外科治療
最近は腹腔鏡下によるアプローチが行われている。
参考
食道アカラシア取扱い規約第4版
http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/55267/2017090114011522735/129_115.pdf