原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断と治療
primary sclerosing cholangitis
- 病態
肝内外の胆管に多発性・びまん性の狭窄が生じ、胆汁うっ滞を来す慢性肝疾患。
潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の合併率が高く、腸管局所の炎症ないし腸内細菌叢の病因への関与が推定されている。
診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では 高率に炎症性腸疾患を合併する。
胆管炎、AIDSの胆管障害、胆管悪性腫瘍(PSC診断後及び早期癌は例外)、胆道の手術や外傷、総胆管結石、先天性胆道異常、腐食性硬化性胆管炎、胆管の虚血性狭窄、floxuridine動注による胆管障害や狭窄に伴うものは、2次性硬化性胆管炎として除外される。
また、自己免疫性膵炎に伴うものを含めて、IgG4関連硬化性胆管炎も除外される。
- 症状
黄疸が28%に、掻痒感が16%に認められている。最終的に肝硬変へ至る。
2015年全国調査によると、全体の62%が診断時無症状。
診断後短期間で悪化し肝不全に陥る症例や胆道癌を併発する症例がある一方で、長期間安定している症例も存在する。
そのため、長期経過にはかなり幅がある。
- 診断
・診断基準(2017年ガイドライン)
Ⅰ:大項目
A. 胆管像
- 原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。
- 発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。
B. アルカリフォスファターゼ値の上昇
Ⅱ:小項目
a.炎症性腸疾患の合併
b.肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)
※IgG4関連硬化性胆管炎、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要。
・胆道所見
病理像は特徴的像を呈する頻度が低く、診断には肝生検よりも胆道造影所見が重要である。
胆道造影所見は、数珠状所見(beaded apperance)、剪定状所見(pruned tree apperance)、帯状狭窄(band-like stricture)などが特徴的。
その他、毛羽立ち様所見(shaggy apperance)、憩室様突出(diverticulum-like outpounching)、胆嚢腫大などもみられることがある。
胆道造影の手段にはERCPを選択される事が多いが、診断のみならMRCPを優先すべき。
・病理所見
病理学的にはonion-skin fibrosis(玉ねぎ状の求心性巣状線維化)が特徴的だが頻度が低い。
胆管周囲の輪状線維化と炎症細胞浸潤をきたす。
典型的所見を示す症例は比較的少ない上、胆道内圧が上昇している場合肝生検によってbiloma(胆汁性仮性嚢胞)など合併症をきたすリスクも無視できないため、small-duct PSCやAIHとのオーバーラップなどを疑う場合を除き肝生検は診断上必要ではない。
- 治療
・ウルソデオキシコール酸(UDCA)
ウルソデオキシコール酸はALPやγ-GTPを低下させるが、予後を改善させるかは不明である。
標準的な用量である 13-15 mg/kg/日投与であれば少なくとも予後を悪化させると いうエビデンスはない。
・ベザフィブラート
UDCAの効果が不十分な患者に対し日本ではしばしば使用される。
肝酵素の低下など短期的生化学的改善効果を示すことが日本の前向き試験によって示されている。
しかしやはり長期予後の改善効果が明らかではない。
また、PSCに対する投与は適用外使用となる。
・内視鏡的治療
dominant stricture(径1.5mm以下の総胆管狭窄、あるいは左右肝管分岐部から2cm以内に存在する径1.0mm以下の肝管狭窄)に対してはバルーン拡張やステント挿入が必要となり、これによって長期予後は改善する。
バルーン拡張とステント挿入のいずれを行うかについては内視鏡医の選択に委ねられている。
・肝移植
進行例では、肝移植が唯一の根治法である。
生体肝移植後のPSC再発率が高い可能性も報告されている。
- 合併症
・炎症性腸疾患
全体の40%にIBDを合併し、若年例では約60%に合併がみられる。
CDよりUCの方が多い。
PSCを合併しないUCと比較して、右側優位、直腸病変の欠如など非典型的な所見を取ることが多く、CD・UCのいずれにもカテゴリーされない非特異的腸炎と診断される症例もある。
結腸癌の合併率がPSC非合併IBDよりも高く、IBD罹患期間が長いほど胆管癌の発症リスクが高いことも報告されている。
また、疾患感受性遺伝子のプロファイルが異なっており、PSC-IBDという独自のカテゴリーとして捉える必要がある。
・胆道癌
PSC患者の胆道癌リスクは400倍ともいわれる。
PSCに合併する胆道癌の早期発見はいまだに困難である。
一般的にPSCは緩徐に進行するため、ALPやBilが急激に変動する、黄疸・発熱・体重減少などの臨床症状が新たに出現するなどの場合には胆道癌の可能性を考えるべきである。
診断後、半年以内に胆道癌と診断された症例が43%、2年以内が89%であり注意が必要。
PSC診断時に黄疸や胆管炎を伴っている場合は、PSCでなく胆道癌による症状の可能性を念頭におく必要がある。
胆道癌の診断には画期的な手技はなく、ERCP下ブラッシング、蛍光in situ hybridization、共焦点レーザー併用、狙撃生検などがある。
各種画像検査、ERCP、管腔内超音波、経口胆道鏡、狙撃生検などを組み合わせる。
参考
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3968
http://www.hepatobiliary.jp/uploads/files/PSC診断基準(日本語版)_2017(1).pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tando/32/2/32_241/_pdf/-char/ja