消化器内科takoitaのメモ

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ストレス潰瘍、ストレス関連粘膜障害(SMRD)について

  • 概要
ストレス潰瘍、消化管出血を含めたストレス関連粘膜障害(SRMD)
SMRDから消化管出血が起こると合併症、死亡率は上昇する。

 

 
ICU入室患者の大部分で内視鏡的な粘膜障害(いわゆる粘膜びらん)は1,2日で生じるとされ、全身状態の改善とともに早急に治癒機転が働くため問題とならない。
ICU入室時には10〜25%、ICU3日目には90%以上でみられる。
循環動態が不安定になったり輸血が必要となる消化管出血を起こす潰瘍形成にいたるケースは全体の約3〜6%といわれる。
 
  • 病態
重症患者では腸管内循環不全により胃粘膜の血流低下及び酸素供給低下がおこり、胃粘膜障害を起こす。胃酸分泌は更なる増悪因子となる。
交感神経刺激によるカテコラミン分泌、強心薬・血管収縮薬による腸管内血管収縮、血管内ボリュームの低下、心機能低下、炎症性サイトカインによる微小循環での血流低下など。
また、腸管蠕動低下による胃内の胃酸停滞も一因。
 
  • ストレス関連粘膜障害(SRMD)予防の対象
①人工呼吸器管理
とくに48時間以上の長期にわたる場合。
重篤な凝固異常
PT-INR>1.5、aPTT>正常上限の2倍、血小板数<5万など
③リスクが多い場合
下記のリスク2つ以上で考慮
  1. 敗血症、敗血症性ショック
  2. 長期のICU滞在(>7日)
  3. 肝不全、腎不全
  1. 頭部外傷でGCS<10
  2. 多発外傷
  3. 広範囲の熱傷(>体表面積の35%)
  4. 臓器移植後早期(肝移植、腎移植)
  5. 胃・十二指腸潰瘍の既往歴(ICU入室1年以内)
  6. 高用量ステロイド使用(ヒドロコルチゾン>250mg/日)
  7. 脊髄損傷
 
  • 予防方法
①経腸栄養による蠕動促進
腸管粘膜へのエネルギー源供給による腸管免疫の賦活・胃粘膜バリア維持、腸管血流維持など。
あくまで循環不全が改善しな腸管内血内血流は改善しないため、早期の循環不全の改善によって早期の経腸栄養が可能な状態とする事が大事。
 
早期栄養可能な患者では早期経腸栄養こそがストレス潰瘍予防に重要。
 
②胃粘膜保護薬
スクラルファートは以前は使われていた。
硫酸スクロースのアルミニウム塩。あくまで粘膜保護でありH2RAやPPIのように胃酸pH上昇を起こさない。 
投与回数が頻回(6時間ごと)、静注薬がなく胃管投与で胃管閉塞リスクがある、他の薬剤(ワルファリン、ジゴキシンキノロン、テトラサイクリン、甲状腺ホルモンなど)の吸収低下を起こす、H2RAに比べ予防効果が劣る
などの理由より著者は使っていないらしい。
 
③胃酸分泌抑制薬(PPIやH2RA)
・H2RA
 
ファモチジンの方がラニチジンより作用時間が長く2回/日でよい。
H2RAは腎排泄であり、腎機能にあわせて投与量を調整する。
胃酸分泌調節3つのうちヒスタミンのみを阻害する。
また、胃酸分泌耐性を生じ、早くて72時間程度で胃酸pHを高く維持する事が困難となる。
 
副作用として、頻度は少ないが、血小板減少、高齢者や腎機能低下患者の中枢神経系副作用(興奮、せん妄、痙攣など)
PPI同様に院内肺炎、CD感染の発症率が上がる。
 
PPI
オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール
 
腎機能による投与量の調整は必要ない。
ベンゾジアゼピン、フェニトイン、ワルファリンと薬物相互作用がある。
クロピドグレルとも相互作用の可能性がある。
H2RA同様に院内肺炎、CD感染の発症率が上がる。
 
※薬剤一覧
 
 
 
  • 胃酸分泌抑制薬の注意すべき合併症
①CDによる偽膜性腸炎のリスク上昇
②肺炎のリスク上昇
胃酸分泌の長期抑制により胃酸の殺菌効果がなくなるため
③大腿骨頸部骨折のリスク上昇(PPI)
胃酸分泌抑制によるカルシウム吸収阻害からの骨粗鬆症進行による
④薬物相互作用
⑤H2RAによる高齢者・腎機能障害時の中枢神経系副作用のリスク上昇
(意識障害、興奮、せん妄、痙攣など)
⑥コスト
 
  • ストレス関連粘膜障害・ストレス潰瘍から活動性出血が起きた場合
胃体部や胃底部に多いが十二指腸に形成される事もある。
輸液と血管作動薬で循環維持を行い、RBC輸血の準備をしながら緊急上部内視鏡検査を行う。同時に胃酸分泌抑制薬の点滴静注を行う。
 
SRMDからの活動性出血の診断がついたらPPI治療投与量で継続する。
副作用が少ない、胃酸抑制能が優れる、長期間使用で耐性が出来にくい、などからPPIを用いる。
 
 
参考
ICU・CCUの薬の考え方使い方ver2